まえがき
　昨今は地球環境に係わる諸問題について,多方面からの取り組みが
盛んであり,その対象とする分野もきわめて多様であって,かつ学際
的な領域に及んでいる。(社)土質工学会では,これまで時機に応じて
地盤環境関連の研究を実施してきた。土・地盤の根幹の基本物性の一
つである「土の化学的性質」は,地盤や地下水の汚染問題や土の災害
に関する問題の解明と対策のために,重要な理論と手段になるもので
ある。例えば,昭和53年に刊行された土質基礎工学ライブラリー
15「土質工学における化学の基礎と応用」は,当時における代表的成
書といえるだろう。その内容は「イヒ学」に重点がおかれていたので,
「環境」という視点からは現在の時点では不満な点が見られるのもや
むを得ないことと思われる。
　しかしながら,地盤工学における従来の知見は,各種の地球環境問
題ならびに建設に伴う各種の環境問題の解決に大いに貢献しうるもの
である。したがって,このような化学的な視野で地盤と環境に係わる
諸問題を捉えた出版物に大きな期待が寄せられている。そこで,入門
シリーズの一つとして[環境地盤工学入門]というタイトルで,地盤
と環境問題とについて,特に化学との結び付きをとりまとめることに
なった次第である。
　本書では,環境地盤工学の基礎として,上の性状を化学的および物
理化学的な視野で解説し,環境影響との関連での把握の手法を取りま
とめ,土や地盤が被害者となる土や地下水の汚染,建設工事に伴う環
境影響や地盤の災害,地盤の環境浄化作用や廃棄物処理問題等を,化
学的特性を中心に平易に解説して,これらの分野を不得手と考えがち
Iな土木系の学生や実務経験の浅い技術者への理解を得やすいように努
めている。また,環境問題に関連する各種の法律や基準をリストアッ
プし,環境工学を主体とした関連用語を整理することによって,手引
き書としての活用がはかれるように工夫している。
　本書が土質工学に携わる全ての人々の目にふれて,環境地盤工学に
対する理解の一助となり,さらに高度なレベルの環境地盤工学を切り
開くための道標となることを念願するものである。全編をとおして整
合性がとれるように調整したが,まだまだ不備な点も多いことと思わ
れる。読者諸賢のご意見をお聞かせいただければ幸いである。
　最後に,執筆者各位をはじめ,編集委員会委員各位,特に幹事を務
めた鳥光照雄氏,勝見　武氏ならびに土質工学会の浅野有三氏に感謝
の意を表したい。

「環境地盤工学入門」編集委員会
委員長　　嘉門　雅史





目次

序章　 環境地盤工学とは


第1章　環境地盤工学の視点からの土
　1.1　土の生成

　1.2　土の構造

　1.3　土中の水

　1.4　土の界面作用

　1.5　土中の微生物

　1.6　土中の有害物質・重金属


第2章　地盤の環境要因を調べる
　2.1　土の成分を調べる

　2.2　水質を調べる

　2.3　土の汚染を調べる

　2.4　変形地盤を計測する

　2.5　騒音・振動を計測する

　2.6　地下の水理を計測する

　2.7　地中ガスを計測する
第3章　地盤の環境災害,公害
　3.1　地盤沈下

　3.2　土砂災害・浸食

　3.3　建設工事に伴う地下水汚染

　3.4　酸欠・ガス事故

　3.5　土工事の濁水・汚泥

　3.6　建設残土

　3.7　廃棄物

第4章　地盤の汚染
　4.1　重金属汚染

　4.2　人工化学物質汚染

　4.3　農薬汚染

　4.4　放射能汚染

　4.5　酸性雨汚染



第5章　地盤安定処理と化学
　5.1　土の固化

　5.2　地盤安定処理

　5.3　電気溶融処理



第6章　地盤環境の保全
　6.1　土の浄化作用

　6.2　地下水の保全

　6.3　環境影響評価



終章 地盤からの発言


付録