まえがき

　本書は,杭工事におけるトラブル事例を集めたものである。トラブルは職域や個人内で埋没することが大半であったが,平成4年4月にトラブルと対策シリーズ①『杭基礎のトラブルとその対策』(山田清臣委員長)が発行され,事例を公にすることによって,同じ失敗やトラブルを繰り返さないための有益な資料として活用されてきた。しかし,初版が発行されて以来20年が経過し,杭の施工法は大きく変わってきた。
たとえば,現在多く用いられている回転貫入杭工法や鋼管ソイルセメント杭工法等は,当時は開発されていなかった。また,埋込み杭工法や場所打ちコンクリート杭は,当時に比べて杭の形状・寸法や施工機械・施工管理が大きく変わってきている。
一方,初版で中心的な工法であった打込み工法は,現在では少なくなっている。このような事情から,杭基礎に関係する技術者からは,現在でも利用できるトラブル集の刊行を望む声が上がっており,本書を改訂する運びとなった。

　初版においては,関係技術者にアンケート調査を行い,多くの方からの経験をもとに本書を編集したが,改訂版においても新たな工法のトラブルの実情を収集するために同様のアンケート調査を行った。
その結果,多数の事例が寄せられ,それらを分析するとともに,代表的な事例を掲載した。杭の施工法ごとにトラブルの内容を類型化し,陥りやすいトラブルの要因と対処法を整理してまとめている。
トラブルの事例では,まず,トラブルの内容を明らかにし,その要因を分析し,行った対処方法を述べ,さらに今後の防止策への提案を簡潔にまとめている。ところで,初版で掲載された典型的な事例について,今回のアンケート調査では提供されなかったトラブルがあり,それらは改訂版においても掲載すべきとの判断により,そのままの形で掲載することとした。このために,改訂版の体裁を初版と同一のB5版のままとした。

トラブルの情報を提供することは勇気ある行為であり,同業の技術者から尊敬されることは間違いないと感じている。トラブルを起こすことは勧められることではないが,その後の対処が技術者の評価を決める最も重要な尺度であると思っている。ただし,トラブル事例の具体的な物件が判明することによる新たな紛争が生じることを避けるため,ご提供いただいたトラブルの内容はできるだけ変えない状態で,実際の対象物件が特定できないような工夫をしている。また,個々の事例の提供者は明記せず,執筆された方々のお名前をまとめて挙げさせていただいた。

　今回の改定版の刊行に際し,快く情報を提供していただきました方々,本書をまとめるにあたり,編集委員会委員の献身的な作業に改めて感謝申し上げます。
また,読者の方々には本書を有効に活用していただくとともに,さらに有益な情報や一層の改善策などのご提案をいただければ幸甚に存じます。

平成26年10月
杭基礎のトラブルとその対策(改訂版)編集委員会
委員長　桑原文夫


【目　次】

第1章　杭基礎におけるトラブルの概要

第2章　場所打ちコンクリート杭のトラブルとその対策

第3章　既製コンクリート杭のトラブルとその対策

第4章　鋼管杭のトラブルとその対策

第5章　小径杭のトラブルとその対策


【トラブル事例】

・場所打ちコンクリート杭のトラブル事例　23例
・既製コンクリート杭のトラブル事例　24例　
・鋼管杭のトラブル事例　21例
・小径杭のトラブル事例　10例