薬液注入は地盤改良工法の重要な一つである。
薬液注入は主に地盤の各種掘削工事において漏水や地盤崩壊などを防止するため、地盤自身の不透水性化や強度増加のために使用する工法である。
薬液注入工法は地盤改良工法としては準備、設備が簡単小規模で、狭い場所や低い空間でも施工が可能であり、振動騒音や交通に対するトラブルが少なく短期間に工事のできるたいへん小回りの効く工法である。
わが国では地下水をもち崩壊性のある沖積、洪積地盤に多くの掘削工事が実施されるため、地盤改良の必要な場合が多く薬液注入工法が広く使用されている。このため薬液の使用量は世界的にみて非常に多い。
しかし、薬液注入工法では注入の実施方法が合理的に行われることが必要であり、また土質により充分な効果を上げ得ない地盤のあることも知っておく必要がある。

　本書は、「現場技術者のための土と基礎シリーズNO.9薬液注入工法の調査・設計から施工まで」の後を受けて、この度、地盤工学・実務シリーズとして発刊されたものである。
既刊「薬液注入工法の調査・設計から施工まで」は、多くの技術者に愛読され、7500部に達する版を重ねて来たが、昭和60年の初版以来既に24年が経過している。この間、薬液注入の分野では、多くの新技術・新工法が開発され、今やわが国の薬液注入工法の技術は世界最先端の域に達し広く海外でも用いられている。
薬液注入に関する多くの科学的な研究成果によって、従来経験に頼るところが大きかった薬液注入工法の設計・施工・管理も理論的に行えるようになってきている。

　本書は、このような最新の薬液注入工法について解説するために、既刊の内容を網羅しつつも、薬液注入に関する理論、新技術・新工法を詳しく取り上げ、全章に亘って新たに書き下ろされたものである。
特に、薬液注入工法の理論に関しては多くの最新の科学的研究成果がわかりやすく紹介されており、他の薬液注入工法に関する専門書とは一線を画す、地盤工学会の出版物に相応しい内容になっている。

　また本書では、薬液注入工法に関する理論の他にも、注入材料、調査法、設計法、施工法、施工事例、環境影響評価と対策、最新工法、法令等が詳細に解説されている。既に薬液注入工法の実務に携わっている方々から、これから薬液注入工法を学ぼうという方々まで、本書を手にして薬液注入工法に関する知見を得ていただきたい。

目次
　
第1章　概要
　1.1　薬液注入の変遷と課題
　1.2　薬液注入方法の概要
　1.3　薬液注入の今後の展望
第2章　薬液注入によろ地盤改良の基礎理論
　2.1　注入形態の種類とその発生メカニズム
　2.2　割裂浸透によりほぼ良好な形状に薬液が浸透するめの限界注入速度
　2.3　ゲルタイムと良好な固結形状が期待できる地盤条件
　2.4　浸透注入によろ強度増加のメカニズム
　2.5　粘性土地盤の改良の考え方
第3章　注入材料と注入工法
　3.1　注入材料の種類と固化のメカニズム
　3.2　注入工法とその特色
第4章　薬液注入のための調査と設計
　4.1　薬液注入のための調査
　4.2　薬液注入の設計
　4.3　注入範囲の算定
　4.4　薬液注入工の実例
第5章　薬液注入の施工
　5.1　施工計画
　5.2　現場注入試験
　5.3　施工計画への試験施工結果の反映
　5.4　施工
　5.5　施工管理
　5.6　計測管理
　5.7　注入効果の確認
　5.8　施工事例
第6章　薬液注入工法が周辺環境に及ぼす影響とその評価・対策
　6.1　薬液注入に伴う環境問題と関連する法規、法令
　6.2　薬液注入に伴う環境への影響
　6.3　薬液注入に伴う地盤変状・既設構造物への影響
第7章　薬液注入の新工法・新技術
　7.1　液状化対策工法
　7.2　動的注入工法
　7.3　コンペセイション・グラウチング
　7.4　新しい工法・機械・注入材料
第8章　付表