はじめに

「東日本大震災合同報告書 地盤編1 地盤構造物の被害,復旧」は,平成 23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震が引き起こした東日本大震災における各種の地盤構造物の被害に関し,後世に残すべきと考えられる情報と知見をとりまとめたものである。本編は以下のような章構成・内容となっている。

第1章「鉄道・道路の被害と復旧」では,まず東日本旅客鉄道について,土構造物(盛土,切土,斜面,擁壁)と橋梁基礎・橋台が地震動や津波によって受けた被害の特徴を明らかにし,比較的被害の大きかった事例を報告するとともに,運転再開状況を整理した。新幹線については,地震動による土留め壁およびトンネルに発生した被害と復旧方法を報告した。一方,一般道路について,土工構造物の被害状況と復旧を地震動・津波別に概観し,被災事例を紹介した。高速道路については,盛土の被害種別ごとの分類や,被害と地震動との関係を整理した。

第2章「河川堤防・フィルダム・鉱さい集積場の被害と復旧」では,河川堤防・フィルダム・鉱さい集積場が地震動や津波により受けた被害やその傾向分析をまとめた。鉱さい集積場については,過去の地震による事例を参照した後,3つの事例を挙げて被害状況を報告した。なお,農業用ダムについては第6章で触れる。

第3章「海岸・港湾構造物および空港施設」では,海岸・港湾・漁港,岸壁・ 護岸,防波堤,防潮堤・海岸堤防・樋門および空港施設(アスファルト/コンクリート舗装)について被害とその調査・復旧状況を報告した。被災メカニズムの把握と復旧設計,および今後の施設設計のあり方にも言及した。

第4章「ライフラインの被害と復旧」では,上水道・下水道の管路施設被害と耐震化効果を整理し,今後の耐震対策を展望した。管路被害は,4つの要因(地震動,液状化,道路崩壊や堤防崩壊,津波)に分類した。下水道管路について,耐震化工法とその効果,さらには今後の耐震対策に言及した。さらに,電力(送電/変電/配電設備),都市ガス設備,通信設備について,地盤災害との関連で被害形態を整理し,今後の課題を挙げた。

第5章「産業施設の被害と復旧」では,危険物保安施設(屋外タンク)について,4つの要因(地盤振動,液状化やこれに伴う側方流動による沈下・水平変位・支持力喪失,津波による洗掘,これらの複合関与)を挙げ,特に液状化に基づく被害概要を報告した。

第6章「農業用施設の被害と復旧」では,農業水利施設(農業用ダム,ため池,パイプライン)について,その被害の特徴と復旧を整理した。特に,ため池について決壊事例を詳しく紹介している。

第7章「建築基礎の被害」では,日本建築学会編集による東日本大震災合同調査報告書・建築編5「建築基礎構造」第1章第1～第4節・第2章第5節を再録し,液状化・津波・震動による杭基礎と地盤の被害を報告した。本編の編集に際し,ご多忙のなか編集委員と執筆者の多大なご貢献に加え,関係各位から多くの関連情報のご提供がありました。特に,第5章の執筆にあたっては,高圧ガス保安協会ならびに危険物保安技術協会のご協力をいただきました。深甚の謝意を表します。

2015年3月
地盤編1 地盤構造物の被害,復旧
統括 村上 章


―　目次　―

第1章 鉄道・道路の被害と復旧
第2章 河川堤防・フィルダム・鉱さい集積場の被害と復旧
第3章 海岸・港湾構造物および空港施設の被害と復旧
第4章 ライフラインの被害と復旧
第5章 産業施設の被害と復旧
第6章 農業用施設の被害と復旧
第7章 建築基礎の被害